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イギリスの音楽産業について考えるブログ
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2009/02/28 21:07
日本のJASRAC、イギリスのPRS、PPL、そしてその他。
日本の音楽ニュースを書くのは初めてかも。

「JASRACの包括契約は独禁法違反」公取委が排除措置命令 - Internet Watch (27/2/2009)
「徹底的に争う」とJASRAC加藤理事長 排除命令、YouTubeやニコ動に影響は - IT Media News (27/2/2009)
社団法人日本音楽著作権協会に対する排除措置命令について(PDF) - 公正取引委員会(27/2/2009)

私自身、日本の著作権に関してはイギリスほど詳しくないことを前提にお読み下さい(弱腰)。
日本音楽著作権協会(JASRAC)が、放送事業者(テレビ、ラジオ等)と結んでいる包括契約が独占禁止法に触れるとして、公正取引委員会は排除措置命令を下しました。JASRACは直ちに現行の契約方式を変更する必要がありますが、JASRAC加藤理事長は「現段階で最良の方法」、「公取委の認識は間違っている」などとして、公取委と真っ向勝負する姿勢を示しています。ちなみに、今回問題になっているのは、放送局との契約なので、youtubeやニコ動などへの影響は現時点ではない模様です。

さて、JASRACが、日本の音楽に関わる様々な著作権の管理を一手に担っている団体であることは皆さんご存じかと思います。では、「包括契約」とは何なのか?放送局は、放送内で音楽を使用する場合、楽曲使用料を著作権保持者に支払う必要があります。日本では、ほとんどの楽曲(※“全て”ではありません)がJASRACによって管理されているため、放送局の支払いは、ほとんどがJASRACを介して行われることになります。しかし、放送で使用される膨大な曲の1曲1曲を正確にカウントし、各権利保持者に正確な金額の楽曲使用料を払う行為は非常に手間がかかります。そこで、放送局は「放送収入に一定率(例えば1.5%)を乗ずる等の方法で算定」し、その金額をJASRACに支払っています。つまり、放送局は、定額料を払えば、JASRACが管理している楽曲を使い放題なのです。

包括契約自体は、例えばイギリスも包括契約なので、ごく普通にあることと言えます。問題は、「収入に一定率をかけた金額を支払う」という方法にあるようです。2001年の法改正により、著作権管理事業に新規企業が参入することが可能になり、現在JASRAC以外にもいくつか著作権管理事業業者が存在しているとのこと。そのうちの1つ、イーライセンス社は、2006年エイベックスから大塚愛等人気ミュージシャンの放送に係る著作権管理業務を委託されました。しかし、放送局は、どこの管理団体のどの曲を使おうと、JASRACには「収入×一定率」の使用料を支払わなければなりません。そのため、JASRACの曲を使えば定額使い放題ですが、他団体の曲を使用する場合、その分出費が上乗せされます。これを嫌った放送局は、これらの楽曲使用を避ける傾向にあったため、結果、エイベックスは放送に係る著作権管理をJASRACに移すことにしたのです。これが、JASRACが市場を独占し、新規事業の参入を疎外している証拠の1つとして参照され、今回の排除措置命令に繋がったとのことです。

詳しくはリンクの記事を読んでいただくことにして、このブログが補足出来るのは、日本とイギリスの著作権管理方法との違いについて。根本的に違うのは、管理している著作権の種類。JASRACのwiki(URL)によれば、同団体が管理している著作権は「音楽(楽曲、歌詞)の著作権を持つ作詞者、作曲者、音楽出版者から録音権、演奏権などの著作権(後略)」とあります。しかし、イギリスの場合、作詞/作曲(音楽出版)はPRS、製造権?(Mechanical Rights)はMCPS、演奏権はPPLと分かれています。さらに、例えばテレビ局がPRSに支払う楽曲使用料は、そのテレビ局の放送時間や音楽の占める割合などによって変わります。PRSのウェブサイトで調べた限り、「収入の○%」といった取り方はしていないようです。加藤理事長は「(包括契約は)欧米でも広く行われており、世界標準と言って過言でない」と述べていますが、契約内容がここまで違うのですから、一緒くたにするのは不適切ではないかと思います。

JASRACのように1団体が全てを管理していると、放送局には手間が省けるという利点がありますが、イギリスみたいに分かれていると、権利の一極集中を回避できます。日本の音楽マーケットはイギリスの2倍ですから、イギリスのように細かくやるのは難しいのかもしれませんが、少なくても、現行の契約とは別の方法はあるのではないかと思います。法改正以前の2001年までは良かったのでしょうが。

最後に、以下の記事のリンクも貼っておきます。参考にどうぞ。
JASRAC独占、なぜ崩れないのか――JRCの荒川社長に聞く - IT Media News (12/5/2008)
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コメント
初めまして。コメントいただきありがとうございました。
現状では、何にも登録しないよりは、JASRACに登録した方が曲を使ってもらう機会は増える可能性が高いと思っています。特に、テレビやラジオは、JASRACのカタログ外の曲はまず使わないと思うので、そうゆう意味では良いのかな、と。ただ、海外がメインであれば、別にJASRACである必要は正直ないと思います。JASRACに登録していて、海外で楽曲が使用された場合は、PRSを通じてJASRACから印税が落ちる仕組みになっているので、直接いけるなら直接でも良いのかな、と。

少しでもお役に立てれば幸いです。
音楽もとても素敵なので、アルバム・リリース楽しみにしてます。
【2010/02/27 15:20】 URL | @yano #-[ 編集]
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anno69(@yano)

  • Author:anno69(@yano)
  • イギリスの音楽産業、特にデジタル・ミュージックと音楽産業における環境問題対策に関するブログ。スコットランド大学院留学記も。
    管理人は、スコットランドのグラスゴー大学大学院ポピュラー音楽学コースを修了し、帰国。音楽好きの普通の会社員をしています。お問い合わせは cielo0818_ls [at] hotmail.com までお気軽にどうぞ。
    A blog dedicated to topics of the UK music market in particular digital music, copyright and environmentalism in pop music.

    ●Twitter:http://twitter.com/anno69
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