イギリスの音楽産業について考えるブログ
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2011/09/02 15:27
“Termination rights”を取り巻く問題について
この記事は、前回の記事「"termination clause"の影響とEMI売却話」(1/9/2011)の続きになります。この記事の中で、アメリカの著作権法“The Copyright Act of 1976”により、同国内で1978年1月1日以降にリリースされた作品について、著作者の申し立てにより原盤権が著作者に返還されると定めた消滅条項(“termination clause”)と、これがEMI売却やレーベルの投資家に与えうる影響についてざっくりと紹介しました。

今回は、この条項と所謂"termination rights"(終了権)に関連して、原盤権の返還について弁護士のSteve Gordon氏がまとめたDigital Music Newsの下記の記事をまとめてみます。私自身は法律の専門家ではないので、甘い点などあるかと思いますが、その時はご指摘頂けると有り難いです。Digital Music Newsの元記事と、消滅条項に関するニュースが世界を駆け巡るきっかけとなったNew York Timesの記事は下記の通り:

The Comprehensive Guide to Reclaiming Your Old Masters... - Digital Music News (29/8/2011)
Record Industry Braces for Artists’ Battles Over Song Rights - New York Times (15/8/2011)

現行のアメリカの著作権法と、その日本語訳を掲載しているウェブサイトはこちら:
Copyright Law of the United States - U.S. Copyright Office (last accessed on 3/9/2011)
KSL著作権情報館 - カネダ著作権事務所 (last accessed on 3/9/2011)※該当ページはroom#5です。


■何故、レーベルにとってバックカタログが大切なのか?
・伝統的なレコード契約では、レーベルがアーティストに印税を払うのは、アーティストがリクープ(レーベルが肩代わりしていたプロダクションやマーケティングのコストを完済する)した後。そのため、たとえアーティストがその作品から返済するに足りる収入を得ていなくとも、レーベルは利益を得られる仕組みになっている。
・違法DLや音楽配信を好む若いリスナーと比べ、お金がありフィジカル音源を好む年齢層の高いファンは、バックカタログの購買層にあたる。そのため、レコード・セールスが落ち続けている中、レーベルはバックカタログのセールスに頼らざるを得ない。

■終了権について(US著作権法、section 203)
・この権利は、著者(音楽であれば所謂アーティスト、実演家)が、レコード会社などに移譲していた自身の録音物に係る権利の返還を要求できるというもの。
・権利の付与は1978年1月1日以降に製作された作品で(a)リリースから35年後 (b)契約から40年後 のうち早く時期が来る方に行われる((b)は今回は割愛)
・先のThe Copyrithg Act ot 1976が1978年1月1日に施行されているため、最初の返還は2013年から行われる事となる。
・返還要求は、期限の10年前から行うことが出来、遅くても2年前には申し立てを行わなければならない。そのため、1978年にリリースされた作品については、今年中に申し立てなければならない。
(※section 203の原文はこちら

■問題点(1):終了権は職務著作物("work for hire"または“work made for hire")には適用されない
・一般的に多くの契約書には“work for hire”と記載されているが、この著作権法下においては職務著作物と見なされない可能性がある。レーベルは、管轄裁判所が作品を職務著作物と見なさなかった場合、アーティストが原盤権を含む全ての権利をレーベルに譲渡するとする付帯条項を入れ込むことで、リスクを分散化させている。しかし、The Copyright Act of 1976下においては、これが権利の“移譲”にあたると見なされ、消滅条項が適用される可能性がある。

◇職務著作物について
・定義(US著作権法、section 101)
(1)雇用の範囲で被雇用者によって作られた作品(訳注:この場合、雇用主であるレーベルが作品の著者になる)
or
(2)次のような使用のために特別に依頼された作品で、当事者間で文書にサインし、同意を得られているもの:集合著作物への寄与;映画やAV作品;翻訳;補助作業;コンピレーション;教科書;テスト;テストの解答用教材;地図帳。

◇録音物は職務著作物にあたるか?
・レーベルは、(2)を用いて“コンピレーションとして集合著作物への寄与=アルバム”と見なし、職務著作物であると主張する可能性がある。(※US著作権法上の定義はこちら
・(2)については、1999年、RIAA(全米レコード協会)が、"AV作品"の後に"録音物(as a sound recordings)"を追加するよう議会に働きかけ、法案“'Satellite Home Viewer Improvement Act of 1999”の修正条項に入れ込むことに成功した背景がある。同法案は国会を通過、これにより、"work for hire"を示す文言の入った契約書でサインしたアーティストに対しては、作品は職務著作物であると確実に説明出来るはずであった。しかし、同法案はそもそもTVシグナルの再送信に関する法案で、RIAAがギリギリになってそっと忍び込ませた修正条項であった。これにミュージシャンや学者が反発、結局この条項は無効となった。レーベルはこの経緯を持ち込み、(2)として見なされうると主張出来るが、そもそも録音物は(2)に入っていなかったのだから(そして最終的には無効となった条項なのだから(※追記9/5))(2)にあたらない、と見なされる可能性もある。
・(2)ではなく(1)を採用する場合、コモンローのエージェンシー法が適用され、レーベル&アーティストが雇用&被雇用の関係にあり、作品を完成させるプロセスに雇用主のコントロールがあったかどうかが焦点となる。結論としては“No”で、レーベルがアーティストのレコーディングに対してコントロールは持っていないと見なされる可能性が高い。また、そもそも雇用&被雇用という同意は両者間で成されていないと思われる。

■問題点(2):作品の著者が二人以上である可能性がある
・権利の返還を求める際、その作品が一人で作られたのか、それ以上なのかが大きなポイントとなるため、返還要求や裁判に入る前に明確にしておくべき問題である。

◇プロデューサー
・プロデューサーは、制作過程において不可欠な存在であり、労務契約を結んで作品に参加しているが故、“共同制作者”と見なされる可能性がある。

◇エンジニア、セッションミュージシャン
・被雇用者と十分に見なされる場合が多い故に、著者にはあたらない。

■今後の展開
・法廷での争いを避け、新たなディールを結ぶ道を探るケースが多いのではないかとの予想がある。
・裁判に持ち込むことに積極的なレーベルもあるが、アーティストの中には交渉に応じず断固として権利返還を要求してくる場合もあるかもしれず、レーベルにとっては難しい交渉となりそうである。
・新たな法律を成立させて解決に導こうという動きがある。民主党John Conyers Jr.議員はその一人。詳細は下記の記事にて:

Legislator Calls for Clarifying Copyright Law - New York Times (29/8/2011)


前回のブログで、「果たして本当にアーティストの申請が通るのかは、実はちょっとした議論になっています」と書いたのですが、Gordon氏の説明を読む限り、私個人は、録音物の権利返還は行われる、もしくはアーティストに有利な形で交渉が進むと考えています。レーベルとアーティストの契約は、そもそも雇用&被雇用というよりビジネス・パートナーといった感じで結ばれてきたものだと思うので、Gordon氏の説明にあるように、職務著作物の(1)で説明するのは難しい。ただし、(2)に関しては、解釈が難しく、ケース・バイ・ケースになっていくのかな、と。Gordon氏の言うとおりならば、そもそも"work for hire"と書かれている契約書の元作られた作品が“work for hire”にあたらないかもしれないというのがおかしい気もしますが・・・。となると、やはり政府からクリアーな基準を出してもらうのが1番いいのではないかと思います。

Digital Music Newsの記事の前書きに“Just remember: your label doesn't want you reading this!(忘れないで:あなたのレーベルはこれを読んでもらいたくない!)”あるのですが、そう言いたくなるのもよく分かります。と言うのも、今も活動を続ける大物ミュージシャンで優秀な弁護士がついているならともかく、このニュースを聞くまで消滅条項のことを何にも知らなかったアーティスト(及び死亡したアーティストの遺族)も多かったのではないかと思うからです。Gordon氏の解説は非常に分かりやすく、ここでは省きましたが記事の最後には実際返還要求するためのステップまで説明されているので、“知らなかった”アーティストに“知られて”しまうと、レーベルとしては確かに嫌かもなぁ、と。

これは、日本のミュージシャン及びその他音楽関係者にとっても他人事ではないと思います。権利や法律の問題に無関心にならず、自分が結んでいる(もしくはこれから結ぶ)契約内容は本当にフェアなのか、心に留めておくべき法律はあるのかどうか、アーティストはレーベルやマネージメント等に任せっきりにしていないか、等々常に考え、行動していく必要があるのではないでしょうか。アーティストに限って言えば、“アーティストが音楽活動に集中するために、法務的な部分は他人に任せる”という考え方もありますが、そうであれば尚更、自分が信頼出来る人に信頼出来る内容で任せるために、アーティスト自身も勉強する必要があります。「知らなかった」では話になりません。

少し長くなってしまいましたが、このブログを書きながら私自身も良い勉強になりました。ご意見、アドヴァイス、ご指摘あれば是非コメント頂ければと思います。
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anno69(@yano)

  • Author:anno69(@yano)
  • イギリスの音楽産業、特にデジタル・ミュージックと音楽産業における環境問題対策に関するブログ。スコットランド大学院留学記も。
    管理人は、スコットランドのグラスゴー大学大学院ポピュラー音楽学コースを修了し、帰国。音楽好きの普通の会社員をしています。お問い合わせは cielo0818_ls [at] hotmail.com までお気軽にどうぞ。
    A blog dedicated to topics of the UK music market in particular digital music, copyright and environmentalism in pop music.

    ●Twitter:http://twitter.com/anno69
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